にしき的フォントを更新しました (Version 2.45) 。
内容は以下のとおりです。

  • 既存のグリフの修正・調整
  • 漢字を140字ほど追加 ; 現在の総計は3040字ほど
  • 「Lisu」(リス文字)を追加
  • 「Latin Extended-D」(ラテン文字拡張D)ブロックの残りをひととおり追加
  • 「Ancient Symbols」(古代の記号)ブロックの記号を追加 ; 古代ローマの貨幣や重量の記号など
  • 「Miscellaneous Symbols and Pictographs」(その他の記号と絵文字)ブロック中の図形的な記号をいくつか追加
  • 「Mathematical Alphanumeric Symbols」(数学用英数字記号)ブロックの記号をまた多少追加 ; サンセリフ体、サンセリフ体太字、サンセリフ体斜体、サンセリフ体斜体太字
  • 私用領域の U+F6EE-F6FF にハッチングパターンの紋様などを追加
  • その他こまごまと追加など



ときに、ある種のコーパスからの分析によれば、使用頻度の高いものから2770位までの漢字で現代日本語の99.9%が表記できるらしいです*1
当フォントの漢字も (甚だ恣意的ながら) なるべくよく使いそうな字から追加していく方針で作ってきておりまして今回で3000字を数えるに至ったので、文章によりけりですが まあその程度には対応できるようになっておりますでしょうか。


また、今回で現在 Unicode にあるラテン文字関係のブロックはすべて網羅できました。
このたび主に追加した「Latin Extended-D」の文字は、中世のラテン文字文献に見られる略記法に用いる文字だとか、中世言語の研究者が専門的な文脈で使うための、島嶼体 Insular script にもとづく文字だとかです。
ところで、本来的な使い方ではありませんが、このへんの文字を上手く駆使することでゲール書体を擬似的に表現するようなお遊びもできます。


それから、このたび追加した《リス文字》というのは、中国の少数民族であるリス(傈僳)族の言語を表記するためにラテン文字をもとにして20世紀初葉に造られた文字で、創出に携わった人物の名をとってフレイザー文字 Fraser alphabet とも呼ばれます。
見た目はラテン文字そのもの、およびそれらを倒立させた文字から成りますが、以下に挙げるようにいろいろな面で普通のラテン文字とは異なる特徴をもつため、Unicode でもラテン文字とは別の文字体系として扱われています。

  • 大文字/小文字の区別がない
  • アブギダ系文字のように、子音に続く [a] 音が表記されない
  • 欧文の句読点のようなものを句読点ではなく声調符号として用いる
  • サンセリフ体が標準の書体として使用される*2


現在のところこの文字のインターネット上での使用例は多くは見られませんが、探してみるとリス文字で綴られたブログなどが見つかりました。


あと、私用領域に追加した紋様的な記号についてですが、これは提案書 N4011 (PDF)にて提案され、UCS に追加される気運は今のところないもののフォント「Symbola」が外字的に収録していたりするもので、「Geometric Shapes」ブロックにある縞模様の四角 (▤ など) を拡張して紋章学のハッチングパターンを表現できるようにしようと意図されたものです。
そのハッチングとはなにかというと、 紋章の色 tincture を無彩色の図版上において網掛けなどの模様の区別によって示す手法のことです。
モノクロの漫画で色彩や質感を表現するためにスクリーントーンが使われるのに似ていますが、こちらは色と模様が対応づけられて体系化されており、たとえば金色部分は水玉状の網掛け、赤色は縦縞、青色は横縞、黒色は格子縞で表す、というような塩梅であり、このほか流儀によっていろいろな派生や異同があります。
ちなみに Unicode のコード表でも、一部の絵文字の例示字形において色を表現するためにこのハッチングの手法が取られているのが見受けられます。

*1:http://sng.edhs.ynu.ac.jp/lab/murata/murata-kanji08.html

*2:普通のラテン文字で標準的に使われるローマン体などは、リス文字においては装飾的な書体と見なされるそうです