世界のいろいろな文字を多数収録している「Quivira」というUnicodeフォントがあるのですが、ここ最近の更新でそれの私用領域にいくつかの文字や記号が新たに追加されていて、それらは拙作にしき的フォントでのコードポイントの割り当てに基づいて配置されているようです。具体的にはユニフォン(E740–E76F)、ソルレソル(E770–E77F)、源氏香の図(F500–F53F)、および土占いの記号(F580–F58F)です。これらの文字や記号のよりフォーマルな書体をお求めの向きにはこちらのフォントをお薦めします。



それはそれとして、にしき的フォントを更新しました (Version 2.20) 。
内容は以下のとおりです。

  • 既存のグリフの修正・調整 ; 漢字を中心にバランスなどを細々と手直し
  • 漢字を160字ほど追加 ; 人名や地名によく使われるような字をそこそこ重点的に追加して、現在の総計は2670字ほどになりました。
  • 「Phonetic Extensions Supplement」(音声記号拡張補助)、および「Combining Diacritical Marks Supplement」(合成用ダイアクリティカルマーク補助)ブロックの文字をひととおり追加。「Latin Extended-D」(ラテン文字拡張D) あたりも多少。
  • ケセン語の表記に使われる特殊な仮名を私用領域に追加 (U+F480-F48F)
  • 源氏香の図に補遺として2字を追加




ケセン語というのは、医師の山浦玄嗣という人が岩手県の気仙地方の方言をひとつの独立した言語としてとらえて呼んだものです。
ケセン語の世界
同氏によって文法体系などがまとめられるとともにローマ字もしくは仮名による正書法が提唱されており、この仮名による表記においてケセン語特有の発音を示すためにいくつかの独特な文字が導入されています。平仮名と片仮名の両方が用意されており、列挙してみると以下のとおりです。


実際にこの仮名を用いてケセン語を綴った本がいくつか刊行されていたりします。



それから源氏香の図*1についてですが、源氏香というのは香道の組香と呼ばれる遊びのひとつで、ランダムに取って焚いた5つの香を聞き分けてそれらの異同を判別するものです。その回答は5つの香を表す5本の縦線を書いて同じ香どうしを横線で結ぶというかたちで行われ、これによってできる図形がすなわち源氏香の図になります。図のひとつひとつには源氏物語の帖名が当てられていて、これがその名のゆえんです。
「5つのものをいくつかのグループに分ける場合の数」は52とおりなので*2源氏香の図も52種あることになりますが、対して源氏物語は全54帖であり、初帖の『桐壺』と終りの『夢浮橋』にあたる図は存在しません。しないのですが、意匠などとして扱う場合この2帖のぶんを補完するために2つの図が加えられることがあるようです。具体的には通例『若菜 下』に当てられている図を『桐壺』とし、代わりに『匂宮』の図の異表記をそこに当てて、また『手習』の図の異表記を『夢浮橋』に当てる、というかたちになります。


にしき的フォントにはこれまで組香で通常使われる52の図のみを収めていましたが、前述のQuiviraフォントが2図を加えて54図にしたかたちのものを収録していたので、当フォントもそれとコンパティブルになるようにしました。

*1:源氏紋とも呼ばれるようです

*2:数学でベル数 Bell number と呼ばれるもののひとつらしいです